日本の音楽制作の双子、 Satoshi & Makotoは、2017年にYoung Marcoのインプリント、Safe Tripとアルバム1枚分の優れたエレクトロニカを契約し、世界的に高い評価を得るようになった。 カシオCZ-5000のみで作曲された彼らの音楽は、欺瞞的なまでに深く、そして変化に富んでいる。アンビエントという言葉で括られることが多いが、確かに環境音楽にも通じるものがある。シンセを多用した映画音楽、90年代のIDM、Bleep, ダブテクノ、イタリアのクラシックハウスの影響を受けている。11月5日にBar Bonoboで開催されるイベントZim Zam Zu!では、この二人のライブがヘッドライナーとして登場する。そこで、2人に質問してみた。
出身はどちらですか?
二人とも神奈川県です。
二人は音楽家の家系で生まれたのでしょうか ?ご両親は音楽家ですか?
いいえ、音楽家の家系ではありません。両親はどちらかというと音楽からは縁遠かったと思います。
正式な音楽のトレーニングは受けたことがありますか?
Makoto: 小中学校の音楽の授業くらいです。でもいつか学びたいとは思っています。
Satoshi: 受けた事はありません。
最初に習った楽器は何ですか?
M: 小学校で習った縦笛・・・自分の意志を持って習いたいと思ったのは母が通っていたヤマハのエレクトーン(電子オルガン)教室ですね。自宅にも母が買ったエレクトーンがあり、すごく興味があったのを憶えています。まだ幼かったので直接母から、何曲か練習曲を習い弾いていました。
S: 楽器を習った事はなく、学校で触れた楽器程度です。自ら触れたのは自宅にあったエレクトーンでした。
今演奏できる楽器は?
M: 独学で、鍵盤楽器を少しだけといったところです。ギターもやりたかったけど、指が太くてフニャフニャで弦を押さえられず、全然うまく弾けなくて挫折しました。
S: 鍵盤楽器を少しだけ弾ける程度です。
音楽制作を始めたのはいつ頃からでしょうか?
M:「音楽制作」といった構えた感じは全くなく、フレーズのメモみたいなものを記録し始めたのは高校1年生くらいからですね。それこそ、CZ-5000を入手してしばらく経ったくらいでしょうか。映画の音楽が好きで、当時のエレクトーンでの再現には限界を感じていたのと、自動演奏で複数のパートを同時に鳴らせるCZ-5000ならなんでも出来ると思っていました。
S: CZが家にやってきた中学3年生、15歳くらいだったと思います。
音楽制作を始めたきっかけは何ですか?
M: 先に述べたとおり、音楽を作るぞ!と意気込んで始めたわけではなく、制約からの理由が大きいです。CZ-5000に内蔵されているシーケンサーは実質1曲しか記録出来ないので、途中で違う曲を始めたくなった場合には今記録されているデータを消去する必要があり、仕方なくそれまでシーケンサーに入力した曲をカセットテープに録音しはじめたのがきっかけです。
S: CZ-5000内蔵のシーケンサーの機能を知って遊びで使い始めたのがきっかけです。
音楽制作を始めた頃にどんな機材を使い始めたのですか?
M: はじめはCZ-5000だけです。子供だったので機材を増やせる余裕はありませんでしたが、お小遣いやお年玉は次の機材のためにずっと使わずに取っておいたことを憶えています。
S: CZ-5000と、作った曲を録音するラジカセでした。
今どのような機材をお持ちでしょうか?
S: 私iが、CASIO CZ-101、CZ-1、そしてCZ-5000のCZシリーズの他に、Roland TR606、TR808、TR909、TB303、MC202、AKAI MPC3000など。
M: 私が、CZ-5000、KURZWEIL K2000、Minimoog Model D、YAMAHA S80など。
二人に取って、CZ-5000の魅力を教えて下さい。
M: 同時発音数が16も有ったこと、音作りのしやすさと自由度の高さ、そしてよく二人で話すのは、当時CZ-5000で良かったのはシーケンサーを積んでいたことが最も大きな魅力だったということです。演奏出来ない素人が楽譜の打ち込み(ステップ入力)をするだけで、一応聴ける音楽が出来上がることが、まるで超能力を得たかの様な気にさせてくれました。
S: シーケンサー内蔵で本体だけで曲を作れること、操作に慣れていることに加えて、現在の高性能で自由度の高いDAWとは異なり機能上多くある制約がクリエイティビティに繋がっていると感じる点です。
そのシンセはどこで手に入れたのですか? 高価なものでしたか? 複数台お持ちですか?
M: CZ-5000は当時日本円で¥198,000で、シンセサイザーとしては比較的廉価な価格帯でしたが、当時の大卒初任給の1.4倍と子供では手が届かない額だったため、ファーストアルバムのライナーノーツにもあるとおり、両親にどうしてもこのシンセが欲しいこと、学業を頑張ることを手紙にしてなんとか買ってもらいました。
CZ-5000の特に気に入っている特徴を教えてください。
S: 音色バンクやシーケンスデータを外部にセーブ/ロードできることや、MIDIを介して音色データを管理できるなど当時の先進性が今も使えることです。また8ステップのエンベロープ編集機能も他のシンセサイザーと被らない独自性だと思います。
M: 音色データやシーケンサーのデータが外部記録出来る点でしょうか。おかげで、ネット時代となった昨今では容易にデータの入手や配布ができる様になりました。
シンセを「使いこなす」までに、どれくらいの時間がかかったのでしょうか?
S: 高校生の頃には一通りの機能は理解していましたので2、3年ほどと思いますが、CZの音作りを掘り下げていったのは就職活動中の大学生の頃で半年ほど試行錯誤していたと思います。
過去にCZ-5000を使用・紹介したアーティストを教えてください。The OrbやJean Michel Jarreが使用しているのは知っています。
S: Kevin SaundersonがCZ-5000で”Reese Bass”を作ったことは知っています。日本人では、プリセットサウンドを監修した冨田勲を筆頭に、高橋幸宏(YMO)、難波弘之、岩崎工 (Films、TPO)、平沢進(P-Model)、マジカルパワーマコなどが使っていたようです。
M: 岩崎工さんという方をご存知でしょうか。80~90年台の日本のTVCMソングを多数手掛けられた方で、CZ-5000の販売促進用カセットテープを担当されています。収められている楽曲クオリティが非常に高く素晴らしいのですが、ネットなどでは聞くことはできず入手困難になっています。
CZ-5000で制作した楽曲の中で、ご自身の楽曲以外で好きなものはありますか?
M: あまりCZ-5000で制作された楽曲であるかを意識して聞いていないのですが、僕らの楽曲に触発されたという方からのCZを使った楽曲は聴いていて非常に嬉しいしありがたいと思っています。
他のアーティストの作品からインスピレーションを受けることはありますか? もしそうなら、どのようなアーティストから影響を受けましたか?
M: 実際、僕らは色々な作品からインスピレーションを受けて作品を作っています。国内外挙げたらきりがありませんが、映像的な音楽を無意識に好んで聴いているかもしれません。
周囲の環境からインスピレーションを受けることはありますか? 自然?特定の場所?
M: これはあります。ただ、電車の中などで突然頭の中でリズムや楽曲が鳴り出して、いざ楽器に向かう頃には忘れてしまうことが多々あります。
他の芸術作品からインスピレーションを受けることはありますか?本や映画など?
M: 最近は本読んだりした時にインスピレーションが湧く時があります。逆に昔ほど映画からは湧かないですね。既に完成されたものだからなのかもしれません。
アンビエント・ミュージックを作るようになったきっかけは何ですか?
M: 実は僕らとしてはアンビエント・ミュージックとして作っているつもりはないんです。自分たちで聴いて気持ち良い音楽を作ろうとは思っています。
日本の環境音楽家と呼ばれる吉村弘のような遺産を意識していますでしょうか?
M: 意識してはいませんが、吉村弘さんは素晴らしい音楽家と思います。
言わさせて頂きますが、二人の音楽はすごいと思います。聴けば聴くほど奥が深い。
M: ありがとうございます。アルバムのために選曲と曲順を考えてくれたヤングマルコとsafe-tripのセンスが素晴らしかったと思っています。
あなたのメロディーやコード、ところどころに見られる暖かい雰囲気は、90年代のイタリアのクラシック・ハウスにも通じるものがあると思います。それとも単なる偶然でしょうか?
M: 80年代後半から90年代のハウス、テクノクラブカルチャーには影響を受けています。
Young MarcoとSafe Tripとのつながりはどのようにできたのでしょうか?Bandcampであなたの音楽を聴いて、Marcoがアプローチしてきたのでしょうか?それともマルコにデモを送ったのでしょうか、それとも実際に会ったのでしょうか?
M: はじめはマルコからBandcamp経由で連絡をもらったことがきっかけでした。僕らがアップしていたYoutubeのCZ-5000動画も見てくれていたとのことで、かなり気に入ってくれていました。すぐにアルバムを出したいと打診され、こちらから音源を送り、safe-tripでマスタリングまで進めてくれました。アルバム発表前にマルコとも直接会って話をすることもできました。非常に気さくでユニークで、アルバムの構想について直接話を聞くことができました。彼のおかげで僕らも思いもしなかった出会いや景色に巡り合えたことを考えると感謝しかありません。
Safe Tripの2枚のアルバムの成功に驚きましたか?
M: 非常に驚いたと同時に、なぜ僕らの曲がこんなに評価されるのか自分たちですら理解出来ませんでした。
Satori & WheelRockとして作る音楽と、Satoshi & Makotoとして作る音楽はどのように違うのでしょうか?
M: Safe-TripでのSatoshi & Makoto名義による評価が大きくなってしまったため、その差はほとんど無くなってしまいましたが、二人それぞれの個人活動の場合にはsatori、Wheelrockと名乗っていました。音楽としてはsatoriとWheelrockはソロとしての位置づけと思っていただければと思います。
現在の拠点はどこですか?
M: 最近までSatoshiは仕事の関係で新潟県でしたが、現在は二人とも神奈川県横浜市です
一緒に住んでいるのですか?
M: 別に住んでいます。
スタジオはどこにあるのですか?
M: スタジオはなく、それぞれの自宅の一角に僅かな機材があるだけです。
どのくらいの頻度で集まって音楽制作をしているのですか?
M: 集まって楽曲制作することは結構稀です。ライブの準備のため数週間前から動き出す感じです。音楽制作はほとんど各個人で行い、持ち寄って確認する感じです。
他のアーティストとの共同作業やプロデュースを依頼されることはあるのでしょうか?
M: はい、ありがたいことにコラボレーションのお話は色々いただきます。しかし、本業の都合でなかなか動くことが難しいことが多く、共同作業やプロデュースといったことはまだ出来ていないです。でも今後は前向きに挑戦したいと思っています。
あるいは、リミックスの仕事を依頼されることもあるのでしょうか?
M: リミックスは何度かさせていただきました。
Sigh Society – Reside (Satoshi & Makoto Remix)
他のアーティストとコラボレーションするのは前向きですか?一緒に仕事をしたいと思うアーティストはいますか?
M: 自分達にできる事は限られていますが機会とタイミングが合えばやってみたいです。特定のジャンルに拘らず自由な発想で表現している方達と触れていきたいです。
現在、アンビエント分野で活躍している日本人アーティストで、あなたが好きで、尊敬している人はいますか?
S: 沢山いますが、Tetsu Inoueさんの活動と消息が気になります。
M: SUZUKISKI、最近ではUNKNOWN ME、やけのはらさんにはシンパシーを感じます。
Satoshi & Makotoの次のアルバムは、いつごろ期待できますか?
M: これも機会に恵まれれば、なので気長にお待ちいただければと思います。
今度のZim Zam Zu / Bonoboのライブ以外に、何かライブの予定はあるのでしょうか?
S: 今の所決まっていません。
M: ですので、今回は貴重なライブになるかもしれません。
11月5日、Bar Bonoboで開催されるZim Zam Zu!で、 Satoshi & Makotoのあの貴重なライブを見ることができます。レジデントDJのKen HidakaとMax Essaがホスト役を務め、名古屋のYoshimRIOTがゲストセットで登場します。また、Bonoboのギャラリースペースでは、アーティスト、 Yamasaki Mamiが水彩画やアクリル画のエキシビションを開催します。山崎さんはライブペインティングもされると思います。屋上では素敵なDaniがスパイシーな料理を提供する予定です。