文:Dr Rob
翻訳:Ken Hidaka
ススム・ヨコタ『 Acid Mt. Fuji』と共に1994年にリリースされたケン・イシイの2作目『Reference To Difference』は、東京のレーベル、Sublime Recordsが立ち上げた時に出した初の諸作品であり、更に日本の国産テクノ・シーンに大きな刺激を与えた。リッチー・ホゥティン率いるPlus 8やベルギーの大手レーベル、R&Sといった海外のレーベルと契約したイシイの初期の12インチやデビューLPの成功により、世界的に認知されたので、彼がこの国内のレーベルから次作を出す事は興味深い出来事だった。更に次のアルバムでは再びR&Sに戻り、90年代の終わりまでそこに留まった。『Reference To Difference』は、今にして思えば、イシイの友人でSublime Recordsを経営する山崎学と天野秀起への贈り物のようなものだった。本作の国内外の売上は、このレーベルがその後新たに生み出した日本のテクノ・アーティストを育成するための軍資金になった。そういう意味でこのアルバムの遺産は相当なものであり、この事実だけでもエレクトロニカの重要なランドマークとしての地位を確実なものにしている。
イシイは、クラシックなデトロイト・テクノと、イギリスのBlack Dog Productions風のIDMの両方に影響を受けたと語っている。彼が自身の音源に盛り込んでいるSF的な弦楽器な音色には前者の影響が感じられ、全てが艶々で冷たく、輝いている、滑らかな異質な表面であるが、彼自身が放つサウンドはかなり独特であると言っても過言ではない。同世代のレーベルメイトであるススム・ヨコタが、少ない要素で催眠術的なリズムを生み出す天才だったのとは対照的に、イシイの曲は非常に複雑で重層的である。彼は「私にとっては、作曲された楽曲そのものよりも個々の音の方が重要だ」と語っているのは超面白い。なぜかと言うと、各楽曲は割と抽象的であり、常に進化を遂げているように見える。メロディックな金属音は、絶えず形を変え、新しいものへと変化していく。ベルやチャイム音が繰り返し鳴り響くが、その結果、音符はゆがみ、屈折し、永遠に流動し続ける。勿論、両手を上げたくなる、刺激的なフックは全くない。
この音楽のルーツは明らかに大箱テクノにあり、それに彷彿するキック音は存在しているが、背後にとどまっている。金床を叩くハンマー、軍隊行進曲調のスネアが遠くで鳴っている。例えば「Fading Sky」のビートは、水しぶきを上げながらドロドロと水中に沈んでいくような質感がある。ダビーで、 Two Lone Swordsmenの初期の作品を彷彿する印象を感じさせる。とはいえ、『Finite Time』はドキドキするような、パネルを叩くような激しい未来的ファンクだ。
「Interjection」は、拍子のないプログラムされたパーカッションの海であり、その質感と音色は、日本の伝統文化、つまり神社やお寺の雰囲気に触れているようだ。アルバムの最後を飾る曲であり、最も緩やかな瞬間でもある「Scene One」も儀式的なリズムを持つが、こちらはやや穏やかだ。人口的なベースのうなり声と、ゆったりとした生音のハンド・ドラムが相対になり、スピリチュアルなサウンドを紡ぎながら、即興的で、蛇行的で、瞑想的で、ほとんどジ・オーブのような雰囲気を醸し出す(破滅的なスポークン・ワードのサンプルは除いて)。
このケン・イシイ『Reference To Difference』の30周年記念リマスター盤は、 Sublime Records / Musicmineから直接注文できる。このパッケージには、 Martyn Pepperellが執筆した読み応えのある素晴らしい詳細な解説が付いているのでお薦めする。

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